2016年アメリカ合衆国大統領選挙で僅差ながらもドナルド・トランプは民主党候補のヒラリー・クリントンから勝利を収めた。トランプといえば、「すべてのイスラム教徒のアメリカ入国を拒否すべきだ」「メキシコ人は麻薬や犯罪を持ち込む」などのアメリカ人を除く多国籍の人に対して差別的な発言を頻繁に行なっている。政策的にみても、NAFTA（北米自由貿易協定）の再交渉を示唆していることや、日本と長年協議して成立間近であったTPPを（環太平洋経済連携協定）大統領令で脱退をしてしまう。他にもアメリカ国内の雇用を守るために、工場の海外移転を模索している企業を攻撃することや、アメリカ軍の海外派遣を縮小し外国への関与を減らすことを示唆していることを見ると、いかにもトランプが内向的な大統領であることがわかる。確かに世界はグローバル化が盛んであり、その影響が大きいことは否めない。グローバル化による影響は、安い賃金の従業員を求め企業や工場が第三国へ移転してしまうことや、企業や工場が第三国へ移転してしまうことによって先進国で働いている従業員の職が奪われてしまうことなどが要因としてあげられる。その実態が「ルポ・トランプ王国」にも記されている。著者がトランプ集会で出会った旧民主党支持者のリアン・フェイバー氏は工場組み立てラインが分解されるのを見たと述べている。彼女はその工場に勤めている従業員で、その光景を見た一週間後に解雇を宣告されたという。その時期はNAFTAが発行された前後で、工場は安い賃金を求めて海外へ移転してしまった。このように多くのアメリカ人労働者はグローバル化の影響によって雇用が失われている。こうした事情があることからトランプが海外を排斥する発言をしても支持を獲得てきたか納得できる。また、このようなトランプの選挙戦略はポピュリズムだと批判され、アドルフ・ヒトラーの再来とも言われた。 こうした批判がトランプに浴びせられたことから、果たしてトランプに独裁者の素養があるのか検証したい。
比較対象となったヒトラーとトランプの類似点を精査したい。第一に類似している点は、敵を作り出し国民から人気を集める戦略だ。独裁者というイメージの強いヒトラーは選挙による合法的民主的手続きを得て首相に就任した。当時ヒトラーは大統領と首相を統合した「総統」職を新設して、自らそのポストに就くことを問い国民投票を行った。その結果、国民の90%の人々から支持を受け、ヒトラー政権が誕生した。ヒトラーがいかにも選挙に強いのかがわかる。一方でトランプも選挙戦略に長けているであろう。かつては共和党内で泡沫候補とされていた男は大統領選本戦まで上り詰めて、大統領のポストに就いた。選挙期間中、彼らに共通するのは敵を作り出すことで国民から支持を集めることだ。実際にホロコーストを断行したヒトラーはポーランド人を敵視していた。それはヒトラー自身がポーランド人のことを嫌いという感情ではなく、国民から支持を集める政治パフォーマンスであろう。そうした抜け目がない計算から彼は大半の国民から支持されたのだ。トランプの選挙期間中の言動からも意図して敵を作り出そうとしていることがわかる。先述したようにトランプは選挙期間中にもイスラム教徒やメキシコ人を排斥するような発言を繰り返していた。政策面でも、保護主義を掲げ他国との関係を軽視していることや、メキシコとの国境付近で壁（グレートウォール）をメキシコ政府の負担で建設することを公約にしてこと、イスラム系外国人の入国を制限している。こうした人権を踏みにじる発言をすることは一見国民から反発を受けるように見える。だがしかし、過度なグローバル化が進み、先進国の雇用が破壊されている昨今、多くの人々は外国人に対して憎悪の感情を抱いていることも考えられる。戦略的に多くの国民の支持を得るために外国人を敵視することは有効であったであろう。こうしたポピュリズム政治もトランプとヒトラーが類似していることである。
第二にヒトラーは国民をミスリードするようコントロールしている点がトランプにも類似している。ナチスが戦争へ突き進んだのはヒトラーの巧みな話術に国民が騙されたことが要因である。見識のある人ならば、ホロコーストのような虐殺を支持することはないだろう。だがしかし、演説に長けたヒトラーの術中に陥入れば情報の正誤の判断ができなくなり騙されてしまう。この点でもトランプは共通している。本書でもトランプ支持者が「不法移民4000万人」と実際に数値の1100万人〜1200万人と大幅に異なることを述べていた。おそらくトランプ自身が政策の細かい点など気にせず、事実誤認や膨張が大きいことが影響しているでしょう。本来政治とは正確なエビデンスとファクトに基づいて行われることで国を変えていくものだ。しかしトランプは政策面で正確な情報を発信していない。いかに国民受けのいい情報を流し、国民をミスリードしていることがわかる。
こうした、敵を作り出し国民から評価を得ようとするポリュリズム政治や国民から大きなリアクションを得るために事実誤認の情報を容赦無く流す点はヒトラーと似ていることである。いずれも分断を煽るものであり、注視すべき点である。
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